SARS-CoV-2の感染を防ぐための距離、マスク、眼の防御に関するシステマティックレビューとメタアナリシス

SARS-CoV-2の感染を防ぐための距離、マスク、眼の防御に関する論文がLancet誌に発表されましたので報告します。

なお、これまでの記事は論文をほぼ全訳するに形式にしていましたが、論文を全訳すると2重になってしまう部分が多く、かえって読みにくいので要約する形にします。

【論文の要旨】
背景:COVID-19の原因となるSARS-CoV-2は人との近接なコンタクトで広まります。身体的な距離、フェイスマスク、眼の防御の効果を調べる目的で調査しました。

方法:感染を防御するための最適な身体的距離を調査する目的、マスクや目の防御の効果を調査する目的でシステマティックレビューとメタアナリシスを行いました。対象はSARS-CoV-2とSARS、MERSを起こすベータコロナウイルスに関する研究です。

結果:16の国、6つの大陸から172の観察研究を見つけました。ランダム化された研究はなく、44の研究は比較研究でした。患者数は25697人でした。身体的距離が1m以内に比べ1m以上の場合は感染が少なく(補正オッズ比0.18)、距離が長くなるほどリスクが減るという結果でした。マスクの着用でも感染リスクが低下し(補正オッズ比0.15)、特にN95マスクや同類の防具でリスクが低下しました。目の防御でも感染リスクが低下しました(補正オッズ比0.22)。

解釈:これらの介入に関するランダム化試験が望まれますが、現時点では今回の研究がベストなエビデンスであると考えます。

【詳細に】
背景:SARS-CoV-2感染を予防するための身体的な距離、マスクの着用、眼の防御に関する推奨はエビデンスに基づくべきです。しかしながら、感染予防に関するエビデンスは主にインフルエンザに関するものであり、SARS-CoV-2やSARS、MERSを起こすベータコロナウイルスに関するまとまったレビューはありません。

方法:2020年3月25日にシステマティックレビューを行いました。5月3日にデータベースを調べ、身体的距離やフェイスマスクの着用、眼の防御に関する研究を調べました。フェイスマスクはサージカルマスク、N95マスクとそれに類似したものと定義しました。目の防御はバイザー、フェイスシールド、ゴーグルと定義しました。MEDLINEやPubmedなどを使い172の試験をシステマティックレビューに含め、そのうち44の比較試験をメタアナリシスに含めました。

結果:要旨で述べたような結果でした。身体的距離と感染リスクを調べた研究の中で、COVID-19に関するものは少なかったものの、ウイルスの種類やセッティング(医療関連かそうでないか)、マスクの種類によらず、身体的な距離が近いと感染のリスクが高くなるという結果でした。また、距離が遠くなるほど、感染のリスクは低下するという結果でした。なお、論文内ではバイアスや研究の妥当性について述べられていますが、詳細は割愛します。

論文内でのDiscussion

今回の研究では距離を1m以上あけることによって感染のリスクが低下し、2m以上あけると更にリスクが低下するという結果でした。またマスクや目の防御によっても感染のリスクが低下することが分かりました。しかしながら、これらによっても感染が完全に防がれるわけではなく、リスクアセスメントとマスクの供給などの状況を鑑みて判断する必要があります(注:マスクの供給などの状況というのはcontextual considerationsという部分を意訳しました)。

今回のメタアナリシスではN95マスクが通常のマスクより予防効果が高いという結果でした。マスクに関しては現在、2つのランダム化試験が行われています(NCT04296643:COVID-19患者をケアする看護師が医療用マスクとN95にランダムに割り付ける試験(n=576)、NCT04337541:一般人を対象に日常でマスクをつける群とつけない群にランダムで割り付け(n=6000)。

研究の注意点としては、ランダム化試験が含まれていないため、想起バイアスや測定バイアスの影響を受けることです。また、身体的距離、マスク、眼の防御によって感染を低下させるという質的な評価についてはかなり確からしいものの、どれだけ感染力を低下させるかの量的な評価については慎重になる必要があります。

まとめとして、身体的距離、マスク、眼の防御といったシンプルな対策に関して、今回のシステマティックレビューは現時点ではベストなエビデンスと考えられます。ランダム化試験を含めた国際的な良質な共同研究が求められます。

【個人的な意見】
本論文は、コロナウイルス感染に対する身体的距離(いわゆるソーシャルディスタンス)、マスク、眼の防御といった基本的な対策についての論文です。これらの対策によってコロナウイルスの感染を低下させるという結果でした。ソーシャルディスタンスは1m以上で効果があるが、可能であれば2m以上の方が効果があるという結果でした。

当たり前なのでは?と思われる結果かもしれませんが、論文中に書かれているように、これまでのエビデンスは主にインフルエンザを対象にしたものであり、それがコロナウイルスに対しても本当に臨床的な予防効果があるか科学的な姿勢で検証する必要があります。なお、対象となった研究の中にはCOVID-19だけでなく、MERSやSARSも含まれていることには注意が必要です。

前向き試験を欠いたシステマティックレビューとメタアナリシスであり、Methodsに「研究の目的は量的な評価である」と述べられている一方で、Discussionには「量的な評価の正確性に関しては注意すべきである」とも述べられています。あくまで暫定的なものであることが論文内で強調されていました。

論文内で述べられているようなマスクの臨床試験の結果が分かったら、またお伝えしたいと思います。

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