新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンの論文が出ました。mRNA-1273というワクチンです。今回の論文は第1相試験であり、まずは3つの投与量での安全性をみています。効果に関しては抗体を測定しています。
【論文の要旨】
背景:mRNA-1273はSARS-CoV-2のスパイク蛋白をコードするワクチンです(注:スパイク蛋白とはウイルスがヒトに感染するときの足掛かりとなるものです)。
方法:45人の健常者を対象とした非盲検の第1相試験を行いました。mRNA-1273を25μg, 100μg, 250μgの3つの量で、2回(初回投与から28日後)接種しました。各群15人ずつ割り付けました。
結果:3群とも初回の接種から抗体価が上昇し、2回目の接種では更に上昇しました。2回目の接種後に血清中の中和活動性をみるための検査を2つの方法で行い、その結果は感染回復期患者の血清と同様の結果でした。有害事象としては倦怠感、寒気、頭痛、筋肉痛が起こりました。2回目のワクチン接種の方が全身性の有害事象が多く、特に発熱を多く認めました。250μg群では3人の患者で重篤な有害事象を認めました(注:それ以外の有害事象は全体的に軽度のものでした)。
結論:mRNA-1273はすべての被験者に抗SARS-CoV-2免疫反応をもたらしました。試験が中止になるような有害事象は認めませんでした。
【詳細に】
今回の試験はdose escalation study(安全性をみるために低用量から投与していき、徐々に量を増やしていく試験)です。試験はシアトルとアトランタで行われました。
試験が行われたのは2020年3月16日から4月14日です。45人の被験者が参加しましたが、3人は2回目のワクチンを接種することができませんでした。その理由は1人が25μgで第1回の投与後5日目に蕁麻疹が起こったからで、2人はCOVID-19が疑われ隔離されていたからです(結果的には陰性だった)。
1回目接種後に発熱したものはいませんでした。2回目の接種後に発熱したのは50μg群ではいませんでしたが、100μg群で6人(40%)、250μg群で8人(57%)でした。250μg群で最大39.6度の発熱をきたしたものがおり、severeと判定されました。局所的な有害事象は軽度でした。倦怠感、寒気、頭痛といった有害事象も2回目接種の方が多く認められ、半分以上の被験者に認めました。
抗体価は1回目の接種後から速やかに上昇しました。用量依存性に抗体価の上昇を認めました。100μg群、250μgでは1回目の接種によって、回復期の血清(コントロール)と同様の値まで上昇しました。2回目の接種ではすべての群で回復期の血清の上位四分位数と同様の値まで上昇しました。
【論文内でのDiscussion】
SARS-CoV-2のゲノムが1月10日に報告されてからワクチンが最初の被験者に投与されるまで僅か66日しか要しませんでした。通常は何年もかかる過程が、これまでの他のワクチンの経験によって僅か2か月で終了しました。
有害事象は全体的に重篤な有害事象は少なく、1回目の接種で有害事象は軽度でした。ただし、2回目の接種では反応が強くなり、特に250μgで強く出ました。
抗体価は1回目接種後の15日目には上昇していましたが、pseudovirus neutralizing activity(疑似ウイルスの中和活性)は2回目のワクチン接種をする前までは低く、ワクチンを2回接種することの必要性を支持しています。
今回の論文はあくまで中間報告であり、day57までしかフォローアップできていないので、長期的なワクチンの効果については不明です。今後1年に渡って追跡する予定です。
現在、健康成人600人を対象にmRNA-1273の50μg, 100μg接種する第2相試験が進行中です。また、100μgを接種する大規模な第3相試験を2020年夏に開始できる計画中です。
【個人的な意見】
2020年7月20日現在、SARS-CoV-2に対するワクチンの臨床試験の論文が続々と発表され始めました。本論文はその中でも最初期に発表された論文です。3月の中旬という臨床試験が開始された速度に驚きます(その頃はアメリカでここまで大変な問題になっていなかったはずですし)。
第1相試験であり、まずは安全性を見ています。臨床的な効果(ワクチンによって本当に感染や重症化を予防できるか)は評価できていませんが、抗体価も上昇しており期待をさせられる結果です。現在、第2相試験が行われており、今後第3相試験も行われる予定ということで、続報が期待されます。
今後もワクチンに関する論文や治療に関する論文を紹介していきたいと思います。
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