コロナウイルスに関連したMIS-C(小児多臓器炎症症候群)の論文

ニューヨーク州におけるMultisystem Inflammatory Syndrome in Children (小児多臓器炎症症候群)についての論文が出ました。5月頃から小児のSARS-CoV-2に関連して、川崎病に類似した疾患を発症するということが報告されていましたが、まとまった報告がなされたので論文を紹介します。

Multisystemは多臓器、Inflammatory Syndromeは炎症性疾患という意味です。現時点で正式な日本語名称がないと思われるのと、論文中ではMIS-Cと表現されているので、以下MIS-Cで表記します。

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【論文の要旨】

背景:MIS-CはCOVID-19に関連して起こります。ニューヨーク州の公衆衛生局が州全体のサーベイランスを行いました。

方法:川崎病、トキシックショック症候群、心筋炎、MIS-Cの可能性がある21歳未満の患者をサーベイランスの対象としました。2020年3月1日から5月10日を対象期間として臨床症状、合併症、転帰等に関するデータを集めました。

結果:5月10日時点で191人の可能性がある症例が集まりました。そのうち95人がMIS-C確定、4人がMIS-Cの疑いとされました。53人が男性でした。人種がわかる78人のうち31人(40%)が黒人でした。0-5歳が31%、6-12歳が42%、13-20歳が26%でした。症状では、全例に発熱があり、97%に頻脈、80%に消化器症状、60%に紅斑、56%に眼球充血、27%に粘膜病変を認めました。検査値では、全例にCRP上昇があり、91%にD-dimerの上昇、71%にトロポニンの上昇がありました。53%は心筋炎と診断されました。80%の患者はICUに入室し、2人が死亡しました。入院期間の中央値は6日でした。

結論:ニューヨーク州におけるMIS-CはSARS-CoV-2の広がりによって起こりました。この炎症性疾患は皮膚病変、粘膜病変、消化器病変、心臓病変を持つことがわかりました。

【詳細に】

背景:ニューヨーク州は5月10日時点でアメリカのパンデミックの中心であり、348,000の検査陽性のSARS-CoV-2感染が確かめられています。小児の感染者は成人に比べて症状が軽度であると報告されていました。しかしながら、5月の上旬にイギリスやいくつかのヨーロッパの国から、川崎病やトキシックショック症候群に類似した炎症性疾患がおそらくSARS-CoV-2感染に関連して起こることが報告されました。

このためニューヨーク州でサーベイランスを行うことになりました。

方法:2020年5月5日にニューヨーク州にある106の病院にデータの提出を要請しました。MIS-Cの確定診断は臨床症状と検査値の両方から行いました。検査値は2つ以上の炎症マーカーの上昇、ウイルス感染はPCRや抗体検査によってなされました。症状を満たしていて入院6週間以内にCOVID-19に暴露されているもののウイルスが証明できなかった場合は疑いとして判定しました。

結果:3月1日から5月10日の期間における191人のデータが提出されました。そのうち95人がMIS-Cの確定診断、4人がMIS-Cの疑いでした。99人のうち29%が低血圧、ショック、重症の心病変、そのほかの臓器病変がありました。95人の確定例のうち94人はPCRで陽性でした。4人の疑い例も確定例と同様の症状であるため、99人をまとめて解析しました。

(以下、要旨に述べたことと重複しない点を述べます)

入院時点で体温の中央値は38.3度、白血球の中央値は10400でした。66%でリンパ球減少、90%でproBNPの上昇を認めました。

入院前の症状は、24%がCOVID-19に矛盾しない症状(注:SARS-CoV-2に感染していてもCOVID-19を発症しないことがあります)を認めていました。発症の中央値は入院前21日でした。

経過は80%の患者がICUに入室し、10%の患者が人工呼吸器を装着しました。MIS-Cの症状出現から入院までの中央値は4日でした。70%の患者がIgGの経静脈投与(IVIG)を受け、64%の患者が全身ステロイド、62%の患者が昇圧剤による治療を受けました。

入院中に94%の患者で心エコーを行い、52%で何らかの心拍出の異常、32%で心嚢水を認め、9%で冠動脈瘤を認めました。90人の患者で胸部CTを行い、35人で異常陰影を認めました。腹部画像(腹部CT44人、腹部エコー34人)を行ったもののうち77%で肝脾腫、腸管浮腫などの異常がありました。99人中36人が川崎病・非定型川崎病の診断がなされました。

5月15日時点で76人の患者が退院し、21人が入院中、2人が死亡しました。2人の死亡の原因は炎症に関連した凝固疾患や神経異常ではないかと推察されます。

【論文内でのDiscussion】

MIS-Cでは心病変、消化器病変、凝固異常が多く、COVID-19とは異なり下気道病変、酸素需要が少ないのが特徴的です。これまでの報告(ケースレポートや少人数の報告)と合致した結果でした。イタリアからの報告と同様にMIS-CはCOVID-19のピークに遅れて起こっており、COVID-19に関連して起こるという説を支持しています。

年齢ごとに病変の出方に違いがあり、0-5歳では皮膚・粘膜病変が多く、心筋炎の合併は13-20歳で多いという結果でした。川崎病・非定型川崎病の基準を満たしたのは0-5歳では48%であったのに対し、13-20歳では12%でした。しかしながら、典型的な川崎病よりも低血圧をきたしICU入室も多くありました。

更なる調査によって、成人にも同じような炎症性疾患が起こるかどうかが分かります。

典型的な川崎病はアジア人に多く起こりますが、MIS-Cは人種に関係なく起こりました。

研究の注意点としては、入院患者のみを対象としているため、MIS-Cの軽症なケースを過小評価している可能性があります。また、新たな疾患であるため、認知不足によって過少報告になっている可能性もあります。

小児のSARS-CoV-2感染の多くは軽症・無症状であり、成人に比べると検査を受ける機会も少ないため、MIS-Cの正確な頻度は不明です。流行地域において更なるサーベイランスを行うことが重要です。

【個人的な意見】

小児の新型コロナウイルス感染に関連して川崎病に類似した疾患が起こるという報告がされていました。川崎病は発熱、眼の充血、口腔の病変を特徴とした疾患です。血管の炎症が起こることが特徴的で、冠動脈瘤をつくることが問題になる疾患です。川崎病自体が原因不明の疾患であり、MIS-Cと川崎病にどの程度の関連があるのは不明ですが、MIS-Cは人種に関連なく起こるようです。

川崎病の治療経験から免疫グロブリンやステロイド治療を行ったようです。私自身も川崎病の治療経験がないので感覚的なものは分かりませんが、論文を読む限り発症時は重篤な疾患、ただし重篤な割には生命予後は必ずしも悪くなく、短い期間で退院できる疾患といった印象を受けました。論文にも記載されているように、入院した患者を対象としているので、全体像としてはもう少し軽症な患者も存在するのかもしれません。

今後、サーベイランスが更なるサーベイランスが望まれます。

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