岩田健太郎先生著「ぼくが見つけたいじめを克服する方法 日本の空気、体質を変える」を読んで

岩田健太郎先生著「ぼくが見つけたいじめを克服する方法 日本の空気、体質を変える」という本を読みました。この本は勿論タイトル通りいじめを主題にした本ですが、いじめ問題を通じて「大事なのは願望ではなく事実」「間違えないのではなく、よりよく間違える」「大事なのは結果を出すこと」といった普遍的な思考方法を述べていますので紹介することにしました。

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ぼくが見つけたいじめを克服する方法 日本の空気、体質を変える (光文社新書) [ 岩田健太郎 ]

岩田先生はダイアモンドプリンセス号にDMATとして乗船し、感染対策を講じたところ問答無用で下船させられました。その顛末をyoutubeに投稿したことで一躍世間で有名になりました。岩田先生は日本の感染症のリーダー的な先生で(非感染症科医からの目線です)、研修医で岩田先生の書かれた感染症の本を全く読まない人はいないだろうというくらい影響力のある先生です。私も岩田先生の本を沢山読みました。

従来、日本には感染症を専門にする大学医局が殆どなかったことから、感染症専門医が少なく、10-15年くらい前までは診療がガラパゴス化していました。日本の医師は世界的にみたら非常に優秀だと思いますが、こと感染症に関しては適切なアセスメント方法を知らなかったので「発熱があったら抗生剤」(判断なき治療)というようなことがごく当たり前のこととしてなされていました。そのような状況を打破すべく、アメリカで感染症を学んだ先生たちが研修医の教育に力を挙げ、研修医の中でも優秀・勉強熱心な医師が感染症を専攻するようになったことで日本の感染症診療も変わりつつあります。岩田先生はその第一人者のような存在で、岩田先生の書籍は私の世代からは絶大な人気がありました。

2015年の日本化学療法学会(感染症の学会)で、そういった岩田先生の本が「上の意向」で一切置かれないという事件が起きました。私も学会員ではないので、詳細なことは知りませんでしたが、当時一部では大きな話題になっていました。本書でも「いじめ」として冒頭で紹介されています。

「いじめ」というと子供の問題と考えられがちですが、実際には大人社会にこそいじめが充満していると岩田先生は述べられています。テレビをつければ、今日も誰かのバッシングを盛んにしていますが、直接的な被害を受けた「事実」があるわけでもない人たちが「空気」に乗っかって、よってたかってバッシングをするのはまさに「いじめ」です。

岩田先生が書かれた本なので、医療問題についても触れられています。時に「医者・医療従事者が間違えるべきではない」というゼロリスク信仰が求められることがあります。しかし、そんなことは不可能であり「間違えないことを望む」のであれば「診療しない」しかないと述べられています。それでは責任回避にはなっても、困っている人の問題解決にはなりません。「間違えないことは不可能」なので「よりよく間違える」ことが大切だと述べられています。「間違える可能性を排除せず、間違える可能性を勘案した上で、よりましな判断、より妥当性の高い判断を提供することが大切だ」と述べられています。常に不確実なものを相手にしている臨床医にとっては自分が間違えることを想定して、次のプランを用意しておくのは当たり前のことだと思いますが、一般の方にも医療従事者がこういった考え方をしていることを知って頂きたく紹介しました。

また、プロである以上「こうあって欲しい、こうやったら問題解決するはずだ」という願望ではなく、結果を求めることが大切だと述べられています。この辺の考え方はEBMの考え方にもつながっていると思います。

なお、本書は現状を憂うだけの本ではありません。本書の後半に書かれているように状況は改善しつつあると思います。いじめの原因は他者への不寛容ですが、多様性を受けいれる流れは広がってきています。スポーツの世界でも猛烈な練習をすることや自己犠牲が目的ではなく、結果を出すことに主眼が置かれるようになってきました。本書にも書かれていますが、臨床研修制度の導入によって「慣習を中心にした医療」よりも「自分で考える若手医師が増えている」と思います。そういった希望についても書かれている本でした。

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ぼくが見つけたいじめを克服する方法 日本の空気、体質を変える (光文社新書) [ 岩田健太郎 ]

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