COVID-19患者に接触後、ヒドロキシクロロキンを予防内服する意義に関する論文(予防効果認めず)

Just a moment...

COVID-19患者に接触・暴露後にヒドロキシクロロキンを予防内服する意義があるかを検証した試験の結果が出ました。

結論からいうと、残念ながら効果は認めませんでした。

いくつかのユニークな方法を使っていて興味深いこともありますので紹介します。

なお論文でも述べられているように「暴露後に内服する」のと「高リスクな人が暴露前から内服している」のは別問題です。薬自体に効果がなければ、そもそも予防効果も何もないように思われますが・・・

【論文の要旨】

背景:COVID-19はSARS-CoV-2の暴露によって起こります。暴露後の標準的な対応は観察と隔離です。ヒドロキシクロロキンがSARS-CoV-2暴露後の症候性感染を予防できるかどうかは不明です。

方法:アメリカとカナダの一部でランダム化二重盲検プラセボ対照試験を行いました。家庭内もしくは職場で、COVID-19と診断された人と6フィート以内・10分以上接触した人を対象としました。暴露状況としてフェイスマスクとアイシールド両方なし(高リスク)、フェイスマスクはつけていたもののアイシールドなし(中リスク)であった人を対象としています。暴露後4日以内の人を対象にし、ヒドロキシクロロキンとプラセボを1:1に割り付けて投与しました。主要評価項目は内服開始14日時点で、検査でCOVID-19と診断された人もしくはCOVID-19で矛盾しない症状を発症した人の割合です。

結果:821の患者が参加しました。そのうち719人(87.6%)が高リスクの暴露でした。COVID-19に矛盾しない疾患を発症した患者はヒドロキシクロロキン群で11.8%、プラセボ群で14.3%であり、両群で有意差がありませんでした。有害事象はヒドロキシクロロキンで多かった(40.1% vs. 16.8%)であったものの、重篤な有害事象は認めませんでした。

結論:COVID-19暴露後4日以内のヒドロキシクロロキンの予防投与は、COVID-19に矛盾しない疾患の発症もしくはCOVID-19と確定される人の割合を低下させませんでした。

【詳細に】

【背景】

SARS-CoV-2はCOVID-19の原因ウイルスです。その伝達を防ぐために、早期に発見し、隔離・追跡を行っています。一度感染が確認されると、14日の隔離が標準的です。

ヒドロキシクロロキンに関する臨床試験は治療目的で行われているものが大部分ですが、感染の連鎖を断つような戦略も重要です。家庭内での感染は10-15%と見積もられています。いくつかの小さな観察研究ではヒドロキシクロロキンが感染のリスクを低下させることを報告しています。

【方法】

COVID-19暴露後のヒドロキシクロロキンに予防効果があるかを評価するためにランダム化二重盲検比較試験を行いました。対象はCOVID-19と確定診断された人と接触があった人(自己申告)で参加時点で無症状の人です。18歳以下の人や入院中の人、既に症状がある人は除外されました。

ソーシャルメディアを通じてアメリカ・カナダの一部の人を集積し、インターネットで調査を行いました。調査のためのメールを1, 5, 10, 14日目に送信しました。

ランダム化はミネアポリスとモントリオールにある研究用の薬局で行われ、研究者と被験者には分からないようにしました。ヒドロキシクロロキンとプラセボは宅急便で届けました。ヒドロキシクロロキンは5日投与しました。

主要評価項目は、検査によってCOVID-19と確定診断された人、もし検査ができなければCOVID-19に関連した症状を認めた人の割合です。参加者が医療従事者で症状を起こせば検査にアクセスできるだろうと見積もっていましたが、研究中の期間では検査に対するアクセスが限られてしまいました。内服14日時点でのデータを集積しました。

サンプルサイズの設計は下記の通りです。暴露された者のうち10%が発症すると見積もり、それをヒドロキシクロロキンで半分にする効果を見込みます。αエラーを5%、検出力を90%に設定すると、両群それぞれ621人の被験者が必要でした。インターネットを通じた自己報告であり脱落を考慮して、両群それぞれ750人の被験者が必要と見込みました。また、登録後から治療開始(day1)までに発症する人がどれくらいいるか未知であるため、中間解析でサンプルサイズを再考するように事前設計しました。

中間解析は、14日時点での報告が25%,50%の患者で終了した時点で行いました。結果的に、中間解析によって無効中止となりました。

【結果】

821人が試験に参加し、ヒドロキシクロロキン414人、プラセボ407人に割り付けられました。年齢の中央値は40歳(四分範囲 33-50歳)でした。27.4%の患者に合併症があり、内訳は高血圧(12%)、喘息(7.6%)などでした。医師、看護師、診療アシスタントなどの医療従事者が545人(66.4%)でした。全体で719人(87.6%)が高リスクの暴露でした。

全体で821人中、107人(13.0%)がCOVID-19を発症(検査で確かめられたか、症状から矛盾しないか)しました。発症率は両群で有意差がなく、ヒドロキシクロロキン群で11.8%、プラセボ群で14.4%でした。暴露からの内服までの期間やサブグループ間での違いはありませんでした。

登録後症状を認めたのは113人で、16人がPCR陽性、87人が症状からCOVID-19で矛盾しない、10人はCOVID-19ではないと判断されました。無症状でPCR陽性となったものが4人いました。最も多い症状は咳(44.7%)で、その他は息切れ(18.7%)、倦怠感(49.5%)、咽頭痛(40.2%)、筋肉痛(37.4%)、嗅覚異常(23.4%)でした。

【アドヒアランス】

治療に対するアドヒアランスは全体的にmoderateでした。群間に違いがあり、ヒドロキシクロロキン群では75.4%、プラセボ群では82.6%でした。治療を中止した一番の理由は有害事象(ヒドロキシクロロキン群17人、プラセボ群8人)でした。有害事象はヒドロキシクロロキン群40.1%、プラセボ群16.8%とヒドロキシクロロキン群で有意に多く認めました。悪心、軟便、腹部不快感が最も多い有害事象でしたが、重篤な有害事象・不整脈は認めませんでした。

【論文内でのDiscussion】

本試験では高リスク・中リスク暴露後、4日内にヒドロキシクロロキンを投与してもCOVID-19の発症を低下させることはできませんでした。

インターネットを通じて患者を集積して調査する、宅急便で直接参加者宅に薬を届けるなど実用的な方法を行いました。この方法によって研究者の感染リスクを減らすことやタイムリーに結果を得ることができることなどのメリットがありました。また、医療機関から遠くの患者のデータを集積できるなど、一般化への利点もありました。

本試験では、COVID-19の重症化リスクがあるような人たちよりも、若く健康的な人が多く含まれました。COVID-19の重症化のリスクは年齢や状態に関係あるものの、感染のリスクは成人であれば年齢に関係ないと考えられています。

無症候者に対するPCRや血清学的な検査を行うことができれば研究の科学的な質を高めることができましたが、それはできませんでした。

本試験にはいくつかの限界があります。試験期間中のアメリカにおける検査能力不足によって、医療従事者でさえも検査にアクセスすることができませんでした。結果として症状からCOVID-19であることを診断する形が多くなりました。インターネットで患者自身が症状を報告するという形式になりましたが、結果は他の研究と同様でした。

本試験では暴露後の予防効果は認めませんでした。よりハイリスクな集団で暴露前からの予防内服に効果があるかは別の問題です。パンデミック収束のために、感染を防ぐ方法が求められます。

【個人的な意見】

ヒドロキシクロロキンはマラリアに対する薬であるにもかかわらず、リウマチやSLEなどの自己免疫疾患に対しても用いられる面白い薬です。COVID-19に対してアメリカでは期待され、治療的な意味合いで投与されていましたが、6月18日の報道ではFDAが使用許可を撤回するなど苦しい状況にあります。

本試験はSARS-CoV-2暴露後にヒドロキシクロロキンを内服することでCOVID-19の発症を予防できるかどうかを調べるための試験です。残念ながら結果はnegativeに終わってしまいましたが、少人数の観察研究では有効かもしれないと考えられていたことを大規模なランダム化介入研究によって検証することの意義は非常に大きいです。

本試験では医療従事者を多く含むこと、治療を目的とした試験よりも若い人を多く含むことを特徴です。治療の試験では男性が60%程度とやや多く含まれる試験が多いですが、本試験は男女ほぼ同数でした。

論文で述べられているように、当初見積もっていたよりもPCR検査を受けた(受けられた)人の数が少なく、医療資源が限られる中で行われました。症状から診断した人がメインなので、本当にCOVID-19であるかどうかは分かりません。しかしながら、全員にPCRで調べても偽陽性・偽陰性が多発するので、暴露後にCOVID-19様の症状が出るかどうかという臨床的に知りたいことを調査した試験であるともいえます。

インターネットを通じた被験者のリクルートメント、薬の配送など興味深い点も多くありました。一般的に臨床試験は厳格な管理下で行われるので、被験者側からの自己申告に基づくと研究の質が低くなることが懸念されますが、本試験ではそのようなことはなさそうです。

また有益な論文が発表されましたら紹介します。

コメント

タイトルとURLをコピーしました