「FACTFULNESS」から考える新型コロナウイルスの問題

FACTFULNESSという本があります。筆者のロスリング・ハンスはスウェーデン生まれの医師で公衆衛生が専門の先生です。2019年に日本でもベストセラーになり書店でも山積みで売られていました。

この本では我々が世界を「ドラマチックな思い込み」で見ているということを公衆衛生的な観点から述べられています。そして、その「思い込み」は科学者やノーベル賞受賞者など知識レベルが高い人でも関係なく持っているものとして紹介されています。このような本がベストセラーになることが大変興味深いです。

今回、ベストセラーであるFACTFULNESSを改めて紹介しようと思ったのはコロナウイルスの問題でもFACTFULNESSの考えを通じて「思い込み」に左右されずに判断できるようになると考えたからです。

Kindle版です

FACTFULNESSでは具体的に10個の思い込みについて述べられており、その解決策についても述べられています。そのうちのいくつかを紹介します。

ネガティブ本能「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み

日本人に限らず世界中の人が「世界はどんどん悪くなっている」と思っているそうです。世界についての暗い話はニュースになりやすく、明るい話はニュースになりにくいからです。テレビや新聞でも圧倒的に良いニュースよりも悪いニュースが報じられています。

毎日起きている「小さな進歩」について報じられることは殆どありません。しかし、毎日起きている日々の小さな進歩によって世の中は確実に良くなっています。世界の平均寿命は70歳を超えていますが、そのことを多くの人は知りません。ネガティブなニュースによって多くの国で飢餓に苦しんでいたり、十分な医療を受けられなかったりすると思い込んでいます。

コロナウイルス対策でも、多くの対策が上手くいった話は報じられず、失敗した話ばかりが報じられます。過度に悲観的になることなく、良いことも悪いことも受け入れることが大切です。そのためには「現実が少しずつ良くなっていることと、悪いことが起こっている・問題が残っているということは両立する」ということを理解しておく必要があります。

パターン化本能「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み

我々は日常、様々なパターン化本能の誘惑に負けてしまいます。たとえば「北欧の国では」という表現をよくすることがあります(もっというと「北欧の国でやっていることは無条件で素晴らしい」という『北欧の国信仰』と「日本の役所がやっていることは無条件で悪い」という自虐的な見方がはびこってならないように感じます)。

しかし、同じ「北欧の国」でも国が違えば文化は全然違います。見方を変えれば「アジア」として日本・韓国・中国をひとまとめの文化に括られるのは無茶な話だと思うでしょう。また、同じ国の中でも意見が全然違う人たちがいることを無視して極端な同一視をしてしまいがちです。

パターン化は物事をシンプルに説明できるので、誘惑が多いですが、そこまで単純ではありません。

私自身も研修医のときに「感染症は固有名詞で考えよう」ということを習いました。「肺炎」「尿路感染」ではなく「肺炎球菌性肺炎」「大腸菌による腎盂腎炎」と個別に考えなさいという教えでした。これもパターン化本能を避けるための教えだったのかもしれないと思いました。

犯人捜し本能「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み

何か悪いことが起きた時、単純明快な理由を探そうとするのが犯人捜し本能であると紹介されています。

深刻な問題を解決するには問題を引き起こすシステムを見直さないといけない、犯人捜しをしている場合ではない、と述べられています。これは先日紹介した岩田健太郎先生のいじめの本にも述べられていました。

犯人捜し本能の例として「ガイジン病」というものが紹介されています。梅毒のことを、ロシアではポーランド病と呼び、ポーランドではドイツ病と呼び、ドイツではフランス病、フランスではイタリア病、イタリアではフランス病と呼んでいたそうです。誰かに罪を着せたいという本能はよほど深く根付いているのだろうと述べられています。

COVID-19のことを「武漢肺炎」と呼ぶべきだという意見がありました(今でもあるのかもしれませんが)。中国に責任があるという論調でした。しかし、仮にその主張を受け入れて「武漢肺炎」と呼んだとして何か問題が解決されるでしょうか?パンデミック下において「病気の名前をどうするか?」という議論は実に非本質的な議論であると思います。

犯人捜しが良くない一番の理由は、犯人が見つかると考えることをやめてしまうからです。しかし殆どの場合、事実は複雑です。FACTFULNESSでは、誰かがわざとしかけなくても悪いことは起こる。その状況を生み出した、絡み合った複数の原因やシステムを理解することに力を注ぐべきだ、と述べれています。

このように、FACTFULNESSを読むことで「事実を事実として受け止める」「安易に因果関係を探さない」「ドラマチックな見方をしない」といったようなことができるようになります。医療従事者もそうでない方も、是非ご一読頂けたらと思います。

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