アストラゼネカ社のワクチンの論文-4つの試験の中間解析ー

ファイザー社とモデルナ社に続いてアストラゼネカ社のワクチンの有効性・安全性に関する論文が出ましたので報告します。

ファイザー社とモデルナ社の論文は単一の試験でしたが、今回の論文は4つの臨床試験の統合解析(中間解析)になっています。

複数の試験の統合解析であるための分かり難さがありますが、1回目のワクチンを半分の量で投与した方がワクチンの効果が高かったり、これまでのワクチンの試験ではデータのなかった無症候性感染の予防についてのデータもあったりするので、興味深い点が多い論文です(ただし、これらのことを検証するための試験ではないので、確かなことは言えないということには注意が必要です)。

ワクチンの名前はChAdOx1 nCov-19という名前です。アストラゼネカ社とオックスフォード大学が共同開発したもので、AZD1222という開発コードが付けられています。ファイザー社、モデルナ社のワクチンと異なりmRNAワクチンではなく、チンパンジーのアデノウイルスベクターを使ったワクチンで、SARS-Cov-2のスパイクタンパクの遺伝子が含まれています。

【方法】

今回の論文は、4つの臨床試験の中間解析です(COV001,002,003,005試験という名前の臨床試験)。

臨床試験はブラジル、南アメリカ、イギリスで行われました。COV001はイギリスで行われた第1/2相試験、COV002はイギリスで行われた第2/3相試験、COV003はブラジルで行われた第3相試験、COV005は南アフリカで行われた第1/2相試験です。

有効性の解析は4つの試験のうち第2/3相試験である2つの試験(COV002試験、COV003試験)のデータを用いて行われ、安全性の解析は4つの試験全てのデータを用いて行われました。主要評価項目は「2回目の接種後、14日経過した後の症候性のCOVID-19の発症」です。

全ての試験で18歳以上を対象としてワクチン群とコントロール群(髄膜炎菌のワクチンか生食)を1:1に割り付けられています。COV002試験(イギリスの試験)のサブグループでは、1回目のワクチンを通常量の半分の量で接種しています(low dose; 以下LD群)。

【結果】

2020年4月23日から11月4日にかけて23848人が試験に参加しました。そのうち11636人のデータが有効性の評価に用いられました。

ワクチンを2回とも標準量摂取した群での有効率は62.1%(95%信頼区間 41.0-75.7)で、LD群では90.0%(95%信頼区間 67.4ー97.0)でした。全体では70.4%(54.8ー80.6)でした。

1回目のワクチン接種後、21日経過してからCOVID-19で入院したのは10人で全てコントロール群でした。

重篤な有害事象は168人に起こり、うち79人はワクチン群に、89人はコントロール群に起こりました。

なお、臨床試験が途中で止まる原因となった「横断性脊髄炎が3人に起こったこと」についてですが、うち1人はコントロール群で起こっています。うち1人は、当初はワクチンとの関連性はpossibleとされていましたが、後にワクチンを打つ前から多発性硬化症を発症していたのではないかということが分かったため、unlikely to be related と評価し直されました。もう1人についてはワクチンとpossibly relatedですが、独立した神経評価機構によって一番は可能性が高いのは特発性(ワクチンとの関連性なし)と評価されました。それ以外に、特筆すべき有害事象は報告されていません。

【詳細に】

試験の背景としてCOV002, COV003試験ともに医療・介護関係者が対象者となっているため、女性が約60%と多く、対象者も18-55歳が多くなっています(別の試験で高齢者に対するデータもあります)。

COV002試験では標準投与群が4807人、LD群が2741人でした。

COV002試験では無症候性の感染を調べるために、毎週咽頭ぬぐい液によるPCR検査が行われました。無症候性の感染に対するワクチンの有効率は標準群3.8%(ワクチン群で22/2168, コントロール群で23/2223人の陽性。95%信頼区間-72.4-46.3)でLD群では58.9%(ワクチン群で7/1120, コントロール群で17/1127人の陽性。95%信頼区間1.0-82.9)でした。

COV 002試験ではワクチンを製造の問題などで結果的に4週間隔で打つことができず、LD群では約半数の被験者が1回目接種から12週以上の間隔で2回目のワクチンを打つ形になりました。SD群でもワクチンの間隔の中央値は69日でした。一方、COV003試験では60%の被験者が6週以内に2回目の接種を受けました。2つの試験とも、ワクチンの間隔が空いた群と空かなかった群での有効率に有意差はありませんでした。

ワクチンを1回接種して21日経過したあとの有効率は64.1%(95%信頼区間 50.5-73.9)でした。

【論文内でのDiscussion】(注:完訳ではなく、分かりやすくするために順序を入れ替えている部分もあります)

ChAdOx1によって症候性のCOVID-19を予防できることが証明でき、特段の安全性に関する懸念もありませんでした。

ワクチンは3つの国、3つの大陸の幅広い人を対象にしました。効果の面ではイギリスで60.3%、ブラジルで64.3%と同様の結果であり、幅広い人、異なる2回目の接種タイミング(イギリスでは遅延してしまったので)で効果を認めました。

当初、LD群での有効性が低い可能性について懸念されていました。結果としてLD群の方が高い有効率でした。偶然の可能性もありますが、無症候性の感染者も減っており、少ない量の方が効果がある可能性が示されています。いずれにしても信頼区間も広く、さらなる解析によって検証していく必要があります。

他のワクチンでも高い有効率が示されています。しかしパンデミックのコントロールのためにはワクチンが製造され、幅広く配布されることによって成し遂げられます(注:単一のワクチンでは追いつかないので、色々なワクチンが必要になるという意味だと思います)。

今回の試験では高齢者のデータはあまり含まれていませんが、別の試験では高齢者のデータがあります。

今回の論文によって、コロナウイルスに対するウイルスベクターを用いたワクチンの有効性を初めて示すことができました。パンデミックのコントロールに寄与できる可能性があります。

【個人的な意見】

やはり興味深いのはCOV 002試験において、1回目のワクチンを半分の量で接種した方が有効率が高かったことでしょう。

これまでの臨床試験では出てこなかった無症候性の感染を予防できるかどうかに関するデータもありました(イギリスで無症状の人にも定期検査していたため)。結果として、標準量では無症候性の感染を防ぐ効果はおそらく殆どなく、1回目のワクチンを半分量にすることで、もしかしたら効果があるかもしれないというものでした。ただ、無症候性の感染を防ぐかどうかは研究の主目的ではなく、それを検証するための試験ではないことには注意が必要です。

全体の有効率はファイザー社やモデルナ社のワクチンよりも低い数字でしたが、対象となっている集団が異なることや試験後との微妙な違いがあるため、数字の直接比較はできないことに注意が必要です。

1社だけのワクチンで世界中の人に届き渡ることは難しいですし、論文中にも述べられているように、ワクチンは多くの人に届けられて初めてパンデミックを止める効果があります。ファイザー社のワクチンは超低温保存の問題がありますが、アストラゼネカ社のワクチンはこの問題がないという利点があります。

有害事象に関しても、当初、横断性脊髄炎の問題が懸念されましたが、おそらくは心配しなくて良いのではないか(3人中1人はコントロール群、1人はワクチン接種前から別の疾患を発症していた、1人は関係している可能性はあるかもしれないが、おそらく偶然という判断)と思います。もちろん、長期的なことや非常に稀なことに関しては数万人のデータをもってしてもわかりません。

今回の試験では意図しないことが何個か起こったため、1回目と2回目のワクチンの適切なインターバルや1回目の投与量の問題などの問題が残ります。インターバルについては結果的にばらけてしまい、遅れたタイミングでも効果が落ちなかった(ようにみえる)という結果でした。1回目の投与量に関しても少ない方が効果が高いという結果でした。ただし、ワクチンのインターバルを空けてもよいとか、1回目のワクチンの量が半分量でも良いとかいったことを検証するための試験ではないので、繰り返しになりますが、これらのことについても確定的なことはわかりません。今回の試験はあくまで「ワクチンを2回接種することで何%防げるか」ということを調べたものです。

イギリスではワクチンを12週置きに接種するという方針なようですが、これは科学的なデータに加えて政治的な判断も入っている(イギリスは日本よりも流行状況が厳しく、早期に多くの人に届けたいという思惑が強い)ため、日本でもそのようにした方が良いかどうかは別問題です。

いずれにしても、今回のワクチンによって多くの人に有効なワクチンが届けられる可能性が高まったという点で非常に価値のある報告だと思います。引き続き有用な情報が出ましたら更新していきます。

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