高齢者の新型コロナウイルス感染症に対して回復期血漿を早期投与することによって重症化を防ぐことが報告されましたので報告致します。
なお、ここでいう重症とは、人工呼吸器をつけるような重篤な状態ではなく、肺炎になって酸素化が悪くなった、いわゆる中等症くらいのイメージです。
重症になった時点で回復期血漿を投与しても、30日時点での臨床的な状態や死亡率は改善されないことが既に示されていました。
Randomized Trial of Convalescent Plasma in Covid-19 Severe Pneumonia | NEJM
回復期血漿について分かりやすい記事があったので併せて紹介します。
国内でも臨床研究開始 新型コロナ 回復者血漿療法とは?(忽那賢志) – 個人 – Yahoo!ニュース
【方法】
試験はアルゼンチンの病院で2020年6月から10月に行われました。
今回の試験では発症72時間以内の軽症な高齢者を対象にしています。高齢者とは75歳以上(基礎疾患のあるなしは問わない)もしくは65-74歳で基礎疾患がある人のことを指しています。
回復期血漿を投与する群とプラセボ群を1:1に割り付けました。主要評価項目は重症化の予防です。重症化とは呼吸数30回/分以上、SpO2 93%以下のいずれか、もしくは両方を満たしたものと定義しました。試験は予定登録者数の76%の段階で、アルゼンチンでの流行収束によって中止となりました。
【結果】
合計160人がランダム化され、両群80人ずつ割り付けられました。年齢の平均値は77.2歳、62%は男性でした。
血漿を投与された群では13人(16%)、プラセボ群では25人(31%)が重症になり、有意差をもって血漿投与群の方が少ないという結果でした(RR 0.52, 95%信頼区間 0.29-0.94)。
重篤な有害事象は報告されませんでした。
【結論】SARS-COV-2に感染した軽症の高齢者に対して回復期血漿を早期投与することによってCOVID-19の進行を防ぐことができました。
【個人的な意見】
回復期血漿については様々な試験が行われていますが、適切な対象や適切な投与時期などが不明確であることもあり、なかなか有効性を示せませんでした。アメリカでは2020年8月にFDAが回復期血漿の使用を緊急承認していましたが、十分なエビデンスがあるとはいえない状況でした。
今回の試験では発症後72時間以内という早期投与によって重症化を防ぐことが示されました。ただしアルゼンチンでの流行の収束によって、予定よりも参加者が少なくなっていることには注意が必要です。
COVID-19で重症化しやすいのは高齢者であるため、今回の試験は高齢者を対象にした試験というところに1つの意義があります。
一方で、重症化する前となると、対象者が広くなってしまいます。血漿療法は採取の面でも投与の面でも手間がかかる治療ですので、対象者を絞りたい治療です。単純に高齢者というだけでなく、更に絞り込めないかという課題が残りますが、COVID-19という疾患自体の異質性が強く、これを研究するのはなかなか難しいと思います。
いくつかの注意点があります。まずこれまでの研究とは異なる国、異なる環境でのデータであるため、数字を単純比較することはできません。
また、回復期血漿というのはモノクローナル抗体のような単一のものではなく、異質性のあるものだということにも注意が必要です。
ただ、いずれにしてもこれまでnegativeな結果が報告されてきた血漿療法にpositiveな結果が出たということは学術的に意味があることだと考えて報告しました。
これからも、また有意義な論文が報告されたら記事にして参ります。
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